[エッセイ]合コンに行ったらキャッシュフローゲーム会に誘われた話[前編]

2017年2月4日

合コンなんて実りのないもの、特別好きだ、とか行きたいとか、

思ったことがない。

出会いとかあんの? 確率低くない? そもそもそんなとこで出会ってもなんだかなー。

と思う側の人間だった。

はずだった。

でも去年のはじめは彼氏も仕事もほぼ同時に失い、

つまり愛も金もない最悪の状態でズタズタにやさぐれていたので、

そんな私を見かねて合コンでもいかが?とばかり誘ってくれる友達が非常に多かった。

掌を返すが如く、とりあえずなんでも行くから誘ってくれ、と頼むほどにまで日々に退屈していて、枯渇していた。

 

そんな中、出会ったのがT君というふたつ年上の男性である。

合コンから数日後、彼から連絡がきた。

「おいしいラーメン屋あるからいかない?」

うざいくらいラーメン好きの私は深く考えもせず

「行く!」と二つ返事で約束をした。

ニート生活に飽きていて、毎日かなり暇だったのもある。

それに、合コンに呼んでくれた友人が

「T君ってすごい人脈広くて、合コンとかで出会った人には必ず、ラーメン行かない?って誘うんだってー」

と前情報をくれていたので、ほんとにラーメン誘うんだな、と思っただけだった。

 

しかし、連れていかれたラーメン屋はびっくりするほどよく見かけるチェーン店で、

なんなら地元に一店舗あるわ!という店。

その時点ですっかり白けたけれど、まぁたしかに「おいしいラーメン屋」であることに間違いはない。

期待しすぎた私が悪いのだ。

 

「味濃いめとか麺固めとか、選べるからね☆」

と丁寧に教えてもらい、

思い切り

「濃いめ、少な目、バリ固で」

と頼もうとしていた口を噤む。

 

「へ、へぇ、そうなんだ」

とりあえずなにも知らないふりをしてラーメンを食べた。

食べながら、お互いの仕事について話す。

私は「今ニート状態だしどうしようか悩んでるところ」と現状を素直にぶっちゃけた。

 

その後、カフェでちょっと話そうと言われ、これまたチェーンのカフェに入った。

残念ながら彼のことを気になるとか好きという感情は一切ないので、

横浜から都心まで出てきて、なぜ私はわざわざ地元にも展開しているチェーン店に入らねばならぬのだ、と若干憤りを覚える。

 

「野々ちゃんは今後自分の仕事をどうしていきたいと思ってる?」

「んー、とりあえず給料とか関係なくおもしろくて、小説書く時間が持てる仕事がいいな」

「そうなんだー」

またまた仕事の話。今日会ってから仕事の話しかしていない。

「好きなときに旅行行けて、帰ってきてちょろっと仕事して、そういうのって憧れない?」

「まぁ、そうだね」

「野々ちゃんの場合、家で書き物できたり、趣味に時間使えたら最高だよね」

「最高だね」

こんな感じで、いくつか肯定だけで返事させるような会話を続ける。今思い返すと、詐欺にも恋愛テクニックにもよく使われる古い手だなぁ。

「俺はね、今の会社やめてフリーになって、ラットレースから抜け出したいんだ。

あ、ラットレースって知ってる?」

 

知らないと答えると、彼はそれについて詳しく説明してくれた。

つまりラットレースとは、生活のために働き、休みの日は仕事で疲れた躰を癒し、

そうして仕事を中心として暮らす終わりのない仕事人生、ということみたいだった。

 

「そのラットレースから抜け出すには、不労所得というものが必要になるんだよね。会社に行って働かなくても入ってくる一定の収入が。

金持ち父さん、貧乏父さんっていう本があってね、そのためにどうすべきか、すごくわかりやすく書かれた本があるんだ。

よかったらその本に出てくるお金に関してわかりやすいゲームがあるから、一緒にゲーム会参加しない?すごく勉強になるよ」

 

キャッシュフローゲーム会。

なんだか怪しい雰囲気しか感じない響きだ。

この男もなんだかめちゃくちゃ怪しい。

 

でも、ここは怪しいものが大好物な私。というか元探偵としてこれは潜入調査しないわけにはいかない。

そんなわけで、謎の使命感と好奇心から、これもふたつ返事で

「行く!」

と答えた。

こうして私は、次の約束を取り付けた。

 

帰り際、「金持ち父さん貧乏父さん」という本について軽く調べた。

本自体悪くはないようだが、それを利用して行われるゲーム会については、

わりと黒いビジネスマルチの勧誘が行われることがあるらしい。

私はわくわくしながらゲーム会の日を待った。

 

ゲーム会当日、はじまる前に会わせたい人がいるから、と言われ、

都心の超高級マンションに連れていかれた。

これには少し不安を覚えたので、

探偵時代から常備していた口紅型催涙スプレー(2980円)をいつでも取り出せる状態にしておく。

 

しかしマンションの最上階に住んでいる「会わせたい人」

というのは、バイヤーとしてバリバリに稼いでいるという女社長だった。

 

「あなたが稲葉さん? お話には伺っていたわ。さ、あがって」

 

見るからにTHE・金持ちな雰囲気の小奇麗な女性に案内されリビングに通される。

大理石の床。

パンみたいにふっかふかな黒革のソファ。

黒豹の置物。

壁一面ずらっと並んだビジネス書。

分厚いカーテン越しに見える東京の街並み。

 

すべてから怖いくらい金持ち感がほとばしっている。

 

会ってそうそう、「金持ち父さん読んだの?」と訊かれ、

思わず「はい」と答えた。

実際一行も目にしていないけど、なんとなくT君から聞いた話を総合して

「こんな考え方があるんだなと初めて知りました。

私もラットレースから抜け出して、仕事だけの人生ではなく、自分の時間を持てるような生活をしたいなって憧れました」

とか言ってみる。

 

簡潔でも、相手が求める答えを返せばだいたいそれ以上深くは訊いてこない。

案の定、彼女は「そうよね!私もあれを読んでそう思ったの」とノリノリになった。

 

仕事について、女社長の転職活動の仕方などを聞かされた帰り、

T君は「ね、不労所得で生活するとあんなふうになれるんだよ!」

と目を輝かせながらまたラットレースの不毛さについて語った。

 

こうして成功者に実際に会わせることで「自分もこうなりたい!」という意識を高めるのは、

詐欺をするにあたってよくある方法だ。

警戒心はどんどん高くなる。

 

 

・・・・・・と、ちょっと長くなりそうなので、今日はここまでー

よければ後編もご覧ください。