[エッセイ]なんの参考にもならない就活指南~私が探偵事務所に転がり込むまで~

IMG_4844SPIというのが就職試験のことだと、つい先日、朝井リョウの「何者」を読んで初めて知りました。

とんだ世間知らずです。

「何者」には、世間一般でいわれる就活の怖さ、大変さがあますところなく書かれておりました。

これがきちんとした就活ってものなのか。

個人の能力やその人の魅力なんて、面接のために時間をかけて考えてきたのであろう言葉を聞いただけでわかるものなのだろうか。

就活ってしんどいんだな、とはなっからぶつかることを恐れ、

完全スル―を決め込んでいた臆病者の大学時代を思い出しました。

 

実際、集団行動が苦手な超絶個人プレー型人間である私は、

どう考えてもちゃんとした企業に所属できないだろうと思われました。

就活のために学生は自己分析というものをするらしいのですが、

私が私自身を分析した結果、社会不適合者であるという判断ができただけ。

企業の説明会には1、2度行ってみたけれど、だいたい眠くて途中退席してしまっていたし、

レストランの食事券がもらえるからという不純な理由で参加した説明会で、予告なしにいきなりテストが始まったときは、

ペンを持って来ていなかったのでしょうがなくアイライナーでテストを受けたこともありました。

やる気のなさが浮き彫りで、このままじゃあフリーターだ、とぼんやり考えていたものです。

 

こんな私でも一応、就職するにあたってそれなりの希望はありまして。

譲れない仕事の条件としては

1、小説のネタになって経験値があがる

2、ゆるい

3、「とにかく度胸があります!」という謳い文句だけで入社させてくれる

4、厳しくても頑張れば努力に見合った報酬がもらえる

この4つでした。

 

上記すべてに当てはまって、一番なれる可能性があったのが探偵です。

 

探偵は尾行したり聞き込みしたりする度胸がなくてはなれないでしょう。

普段はビビりで、社交性にも乏しいのですが、

好奇心だけでどこへでも乗り込んでいく自信はなぜかありました。

度胸がある、といえば聞こえは良いのですが、要は無鉄砲なのです。

 

それにもう大学4年の秋で、そろそろ就職決めないとまずいという切迫した状況だったこともあります。

フリーターになる覚悟もない。悩んでいるヒマはなんてありません。

私は 探偵事務所に就職しようと決めました。

 

さっそく求人をみると、

「相談員募集! 条件:運転免許所持・40歳~60歳・人生経験豊富な方尚良し」

と書いてあります。

当時、まだ免許も持っておりませんでした。

というかその前に私は22歳だから年齢の段階でアウト。

けれど、そのときにはもうすでに探偵事務所に入りたくてたまらなかったし、

そうなると私は他のことは考えられなくなるアホな猪突猛進型でしたので、

思い立ったが吉日ということで、とりあえずその日のうちに教習所へ行きました。

 

そうして毎日教習所へ通って、まず免許のことはクリア。

あとは年齢か。

これはもう、トークでごまかすしかありません。

 

ダメ元で電話をかけてみました。勢いは大事です。

人生勢いだけで生きてきたので、「とりあえずやる」という言葉が大好きです。

「あの、求人をみてお電話しました。そちらで働きたいのですが」

「ご年齢は?」

「42です」

もういきなり年齢詐称。

相手は探偵ですし、さすがにバレるかな、と思いながらも、意外とすんなり面接までこじつけることができました。

履歴書は面接のときに渡すので!と無理やり押し通し、逃げるように電話を切ります。

電話の段階で断られるのが一番怖かったのですが、会ってしまえばなんとか丸め込めるかもしれない、

とこの辺りで俄然やる気がでてまいりました。

 

そして面接です。

雑居ビル内にあるその事務所は、「探偵社」ということがわからないように看板は掛けられていませんでした。

探偵社に入るところを見られたくない、という依頼者がたくさんいるからでしょう。

インターフォンを押して出てきた女の人が、頑丈そうな鍵で施錠された機材置場に案内してくださいました。

 

こんなところで面接かい、と思いながらも、

そこには盗聴発見器やカメラ、GPSや行方調査用のチラシが大量に置かれており、私はひとり大興奮です。

「うわ~探偵っぽい~!」

陽のあたらない煙草くさい部屋で、

この日のために誂えた新品のスーツを着た私は、これから面接ということも忘れてわくわくしながら室内を見て回ります。

(もし探偵になれたら、江戸川コナン、探偵さ、みたいな台詞が本気で言えるのかぁ・・・)

とアホみたいなことを暢気に考えるくらい浮かれておりました。

 

そうこうしているうちにやってきたのは、ガタイのいい40歳くらいの男の人。

色黒でそれなりにイケメンだけど、目力が異常に強くて妙なオーラがありました。

「あれ、若いじゃん」

「はい、新卒です。就職したくてきました。すみません」

「へー・・・・・・まぁいいや。なんで探偵希望なの?」

いいんかい、と嬉しいながらも心の中ですかさずツッコミます。

「小説書いてるんですけど、ネタになるかなと思って。あと、不倫映画とか好きなので・・・・・・」

彼に履歴書を渡し、一か八か、気持ちがいいくらい正直に答えてみました。

さすがに、我ながら面接でふざけたこと言っているなぁという分別はついております。

「はは、そうなんだ。でもさすがに相談員は年齢的にさせられないからやってもらうなら調査員かな。

危ない目に遭うかもよ? 怖くない? 大丈夫?」

基本的に相談員として雇うのは、夫の不倫とか娘の婚前調査とか、そういった重たい話題にも対応できるよう、ある程度経験を積んだおばさまが多いのだそう。

そりゃあまだ人生の酸いも甘いもわからないような新卒の女に、身内のよくないことを相談なんてしたくないでしょうしね。

「調査員で大丈夫です。怖い物なんてありません」

ふーん、と履歴書に目を落とす男性。

私もつられて視線を下げると、彼の小指は先っぽがすっぱり丁寧に切り取られていることに気が付きました。

(わぁお・・・・・・)

と思いながらも、ビビったら面接落とされるかも、と視線を戻した彼と必死に目を合わせて冷静に会話をします。

はたから見たらガンつけ合いながら話しているような状態。瞬きすらしていなかったと思います。

「運転できる? 車両尾行とかしてもらうかもしれないけど」

「はい、得意です」

「履歴書見た感じ、免許取りたてみたいだね」

「無免でずっと運転してたんで大丈夫です」

「見かけによらず悪いんだ」

得意と言わないとならないような異様な雰囲気に飲み込まれ、こんな嘘まで吐く始末です。

まぁそもそも年齢の段階でめちゃくちゃ嘘言っていたわけだし、ここまできたらほんとに怖い物なんてありません。

 

「張り込みだと長時間立ちっぱなしになるけど、体力ある?」

「あると思います。格闘技やってます」

「走るの速い?」

「逃げ足は速いです」

 

こんなやりとりをテンポよく続けていきました。会話も弾んで、面接というよりお喋りという雰囲気。

(恐いけど、話やすいし意外といい人そう。)

そう思った矢先です。

失礼しまーす、と言ってお茶を持ってきた女性事務員のを、彼は物凄い形相でキッと睨みつけました。

「おい!おせぇよ!茶くらいさっさともってこい!!」

怒鳴りながら、バシバシ机を叩く。

(いや、やっぱこえぇえよぉおお!泣)

心の中では泣きながら、それでも勘繰り顔色ひとつ変えなかった私は、この短時間でだいぶ強くなりました。

 

そして彼は私の顔に視線を戻し、今しがた見た恐ろしい剣幕はどこへやら、菩薩のように微笑みました。

「俺は調査部長なんだけどさ、まぁいろいろ仕事はあるから。4月からきてよ」

「え、いいんですか!」

「でも3年くらいしたら辞めるんでしょ?笑」

「はい、飽きたら辞めます!」

 

そんなわけで私は無事に探偵事務所に正社員として就職、というか転がり込むことができたというわけであります。

ひたすら正直に、そしてビビらずに答えた結果の勝利です。万歳。

 

 

結局大事なのは「どこに就職するか」より「なにをしたいか」だと、この件を通して改めて思いました。

 

そもそもいい会社とはなんでしょう。

大企業や名の通った企業だけがいい会社ではなく、自分の働き方に合っている会社がいい会社だと私は思います。

「世間的にいい会社」より「自分にとっていい会社」と出会えたら最高です。

やりたくない仕事をして「でも給料もいいし、有名だし、だから、いい会社なのだ」と思い込もうとしていても、

自分の「つまんねー!仕事くっそつまんねー!」という心まではごまかせません。

 

しんどい就活に悩んでいる人も、一度こんなふうに気を抜いて、自分の言いたいことだけを素直に言ってみるといいのではないでしょうか。

いいストレス発散にはなると思います。

それに案外うまくいくかも。

バカにしてんのかって、怒られる可能性は高いですが。

 

・・・・・・まぁ、私の話にも実は続きがあって、あれからすんなり就職とはいかなかったのです。

 

入社直前一週間前、何時に出社すればよいかを尋ねておこうと会社に事務所に電話したところ、

「・・・・・・は?」

と言われました。

なんと、採用が誰にも伝わっていないという恐怖の事態に直面したのです。

嘘やろ、と思いました。

人生で1、2を争うくらい焦りました。焦りすぎて、なんか笑っちゃいました。

 

面接をしてくれた調査部長の男性は、去年末に辞めて、別の事務所に移ったのだそうです。

しかも入社予定である人間がいることも伝えず、ご丁寧に私の履歴書まで持っていった。

なんてこった、です。

 

それでも結局、社長含め社員たちに面接での話をすると、

入社していいよ~

と奇跡のゆるさで受け入れてくれたので、無事、社会人になることができました。

 

(さすがに怪しく思い、法人登記を取って調べたりもしたのですが、これでもわりと有名な、株式会社としてちゃあんと経営している事務所なんですよ。笑)

 

参考にしないほうがいいと心から思いますが、こんな感じでもたくましくなれば就職できます。

1に勢い、2に勢い。

俺様が働いてやると言ってるんだから文句いうなぁぁぁあああ!という強い気持ちと、

根拠のない自信を持って、ガンガン立ち向かっていきましょう。

 

エッセイ

Posted by ayapan