[エッセイ]女子校的恋愛法

IMG_4851女子校では独自の文化が形成されていると思う。

私がまだゴボウの如くガリガリで、真っ黒だった中学生の頃は、先輩との手紙交換が流行っていた。

同じ部活の先輩、または生徒会に所属していて目立つ人、単純に可愛い人、

など、自分の好きな女性と手紙のやりとりをするのだ。

「期末テストお疲れさまです!」

「先輩がおすすめしていたお店、友達と行ってみました♪」

「この前の文化祭、先輩と写真撮れてうれしかったですハート」

こんな感じのやりとりをする。

正直私はこういったやりとりをしたことがないのでわからないけど、とりあえずこんなものだということにする。

私自身は手紙交換をしていなくても、上級生のクラスにひとりで手紙を渡しにいくのは心細いのでついてきてほしいと、友達に言われて付き添ったことは何度かあった。

 

中学一年生の私から見て、二つ年上の三年生というのは恐ろしく洗練された存在で、

廊下から既に漂う空気が違った。怖いわけではないが思わず圧倒されるなにかがあった。

扉を開けるとエイトフォーの香りが襲った。

ポポロなどのジャニーズ系雑誌を読みながら、誰坦なの、藤ヶ谷まじでかっこいい、ときゃーきゃーしたり、

みんな一様に白い靴下を最大限まで伸ばし、ソックタッチという靴下用の糊をこれでもかと塗っている。

 

私たちが教室の前に立つと、ちらっと姿を一瞥し、

「後輩ちゃんきたよー」

と、教室の入り口にいた先輩が誰かを呼んだ。

後ろに隠れていた友達は、手紙交換をしている先輩と目が合うと、嘘でしょ、というくらい顔を赤くして私の背中の肉を抓んだ。

件の先輩はバスケ部で、背が高くて、ショートカットが似合う、ジャニーズにいるかわいい男の子みたいな風貌をしていて、

あぁなるほど、ドキドキするのもなんとなく判る、というような感じではある。

「ありがとねー」

先輩はハート型に折られた手紙を手にとると微笑んで、

「来月試合だから返事遅くなるけどいい?」と訊いた。

友達はなおも私の後ろに立ったまま

「はい、いつでも大丈夫です」といつになくか細い声をだす。

こんな友達を見たのは初めてで、私はふたりの間に挟まれたままかなり戸惑った。

先輩たちめっちゃ見てるし、はやくここから逃げたいと思った。

 

これはつまり、女子校ならではの疑似恋愛的な行為である、と私は思う。

私はあいにく、手紙をハート型に折る技術も持ち合わせていないし、可愛らしい丸字でもない。

でも、クラスの可愛くておしゃれな子はやっているし、別に好きな先輩とかいないけどなんとなくいいなぁ、とは思っていた。

だけど、まったくイケてなかったゴボウの私には到底真似できなかった。

 

それが中学二年になったとき、突然先輩から呼び出されたのだ。

見たことのない先輩だった。

ほんとに呼び出す相手、私で会ってますか?とびくびくした。

「これ、アメリカのお土産だよ」

ピンク色の可愛い鳥のぬいぐるみだった。

睫毛が長いアメリカンすぎる雰囲気の鳥を、私に手渡す。

どうしたんですかこれ、と訊くと、

「あげたかったから、あなたに」

と云われ、次いで「もしよかったら手紙交換しない?」と云われた。

 

まるで告白されたような気分だった。

どうしていいのかわからない。

手紙交換には憧れていたはずなのに、いざとなるとなぜか恥ずかしくて大パニックで、

「ご、めんなさい……」

気づいたら、断っていた。

 

部活の出席も適当だし学校でさして目立っているわけでもない私に何故、という思いと、

そのときの先輩の顔が、まるで私の後ろに立って恥ずかしそうにしていたいつかの友達みたいだったのが怖かったからかもしれない。

心の底に甘酸っぱさだけが残った。

 

そのときの私の風貌は、腰まであった髪をばっさり切ったウルフカットで、運動部でバリバリに肌を焼いていた。

「日焼け止めしたって無駄だからいっそ焼いてやる」

「太陽は友達」

が口癖で、学校でサンオイルを塗りたくっていた黒光りのバカだ。

そのバカに、あのプレゼントは不釣り合いなほど可愛らしかった。

 

ちょろっと調べてみたところ、こういう催しは大正時代からあったようだ。

シスターの頭文字をとった「エス」と呼ばれていて、彼女たちは先輩後輩でペアを組み、

文通をしたり、二人で遊びに行ったりしていたそう。

百合とまではいかないまでも、美しく可憐な疑似恋愛の世界が繰り広げられていたというわけだ。

 

それが現代も似たような形で続いているのだろう。こういうのって細々と、しかし不思議と長く受け継がれていくものだ。

まぁ、時代が変わったので今はラインでのやりとりなどに変わっているのかもしれないけれど、

それだと先輩のクラスへ渡しにいく緊張とか不安がなくて、なんだか風情がないなぁとちょっと寂しく思う。

 

先輩から貰ったあのぬいぐるみ、なんとなく捨てられなくて卒業から十数年たった今も私の部屋に飾られている。

今思い返すとあの先輩はなかなか可愛らしい女の子だったので、思い出として手紙交換しておけばよかったかな、

と少し後悔すると同時に、

中二男子ばりにガチで恥ずかしがりすぎた自分を思い出して、今また恥ずかしくなっている。

 

エッセイ

Posted by ayapan