[エッセイ]虫克服のメゾット

IMG_4975どーせ虫が現れたのなら、例えば

えーん、むしやだー

こわぁい!

のような、「The女子」という怖がり方をしたいものである。

 

長年こういった反応ができるよう夢みて、努力しようと考えてはいるけれど、これがなかなかうまくいかない。

このような危機的状況をも自分のか弱く可愛いアピールに活かせるようになったら、それはプロの領域だ。

 

「こんなので大げさだな」と呆れたようにイケメン王子に笑われつつも

「だって、ほんとに怖いんだもん」

と筋肉質な腕にしがみついて涙目で訴える。

それから、やれやれ、という感じで彼にぽいっと虫を退治してもらうのだ。

そういう妄想までした。イメトレは済んでいる。

しかし実現できそうにはない。

 

なぜなら虫に対する恐怖が私レベルにまでなると、虫が現れた瞬間、

きゃあ、とか声を上げる前に逃げるからである。

とにかく逃げる。

声を一切上げず、真顔で、サッと身軽に逃げる。

もはや自分自身が虫であるかのような俊敏さで、一瞬にして現在位置から五メートル先まで移動する。

今そばにいた人間が、気づくと遠くに飛び去っているという状態。

これでは、

「いや、こんなんで大げさだろ」

とイケメンからドン引きされるだけである。

 

昆虫図鑑ですら触れない。

特にトラウマになったのが、蛾のふさふさ部分のドアップページ。

思い出しただけで身の毛がよだつ。あと蠅の目玉のアップなんかも。

虫の種類は問わない。なんなら蟻でもダメ。ダンゴ虫を手の平に乗せるなんてありえない。

前世で虫責めにでもあったのかというくらい、無理。

虫が苦手、なんてベタすぎてなんか恥ずかしいけど、ごめん、やっぱ無理。

 

虫というのは、虫嫌い人間の方に寄っていく習性でもあるのだろうか。

こんなに苦手なのに虫の方は私が好きみたいで、逃げるとこちらに近寄ってくるのもよくない。

虫に好かれる黄色い服や明るい色彩のものはほぼ着ないというのに、

なぜか逃げる私を追って不規則な飛行をする。

 

「このままではだめだ、一生不意に出くわす虫に怯えるわけにはいかん」

そんなわけで思い立った私は、いくつかの挑戦をもって虫を克服することにした。

十九の秋のことである。

どうせかわいく逃げることができないのなら、いっそ怖がるのを辞めたい。

ハハハ、と笑いながら、ぶちっと手で握り潰せるくらい強くなりたい。

極端な性格の私はそう思い、なんでも付き合ってくれる友人を数名招集した。

 

向かったのは池袋。

ネオン眩しい飲み屋街の一角に、美味しい虫料理を出すという店があった。

私が思いついたのは、人間である私はお前を喰うこともできるんだぞ、という自信をつけるための荒療法だ。

とりあえず、虫を食ってみることにした。

注文してもやっぱり食べられないという最悪の事態に備えて、食欲旺盛な男子も数名誘ったので安心だ。

 

頼んだのは、蜂の子、ザザ虫、そして郷土料理として有名なイナゴなどなど。

運ばれてきたものは想像以上に料理という風貌で、虫らしさはない。

しかし、まず最初に食したザザ虫に関しては、箸でつまんでよくよく見ると足が無数に生えている。

間近で見たのは初めてで、この時点で軽く卒倒しそうになる。

「いや、これではいけない。克服するんだ・・・・・・」

私の決意は固かった。

大根おろしとポン酢が小鉢に入っていて、これに付けていただくらしい。

一緒に来た仲間と共に、とりあえず一匹だけ拾って、口にした。左手にはコップを握って。

 

しかし、それが意外なことになんとも美味であった。

じゃり、と歯でそれを砕くと、ほんのり苦みがあるが、大根おろしとポン酢によってまろやかに中和され、

小料理屋で出されるひじきとかきんぴらに匹敵するような安心感のある味。

うまいうまい。

私はすっかりザザ虫のとりこになった。

見かけはグロくてもいける。全然いける。

毎朝の食卓に「味噌汁、卵焼き、焼き魚、ザザ虫」と並んでいても自然に馴染むくらいである。

友人らも柔らかくて甘めの蜂の子が好きだったりそれぞれの好みはあったが、なんとか普通に食べきることができた。

美味しい食事だった。

口に入れたことでほんの少し、虫に対する恐怖が薄れたような気がした。

 

その虫喰いの会からしばらくして、寄生虫博物館にも足を運んだ。

目黒にあるそこは、変り種スポットとしてかなり有名である。

そういう施設があることは知っていても特別興味を持たなかったのだが、そのときちょうど特別展示で

「世界のゴキブリ展」

が行われていると聞き、これはぜひ行かねばと若干興奮しながら再び友人と共にそこへ出向いた。

ここまでくると、むしろ虫めっちゃ好きなんじゃないかという疑念さえ湧いてくる。

 

世界のゴキブリのレベルは想像以上に高く、

ジャングルに潜んでいる世界最大のゴキブリ模型に関しては、私の知ってるお前と違うよ、と絶句した。

だが巨大すぎて、もはや怖くもない。まぁ気持ち悪いことこの上ないのだけど。

簡単に捕食されそうな威圧感はあるが、こいつは虫というより動物ちっくで、

なるほど、私が苦手としているのは小さくてこそっと動いてうじゃうじゃしているものなのだと気が付いた。

 

結局、虫克服ができたかといえば、やっぱり素手で潰すこともできないし、

現在もありえないような動きで逃げて周りの人間を逆に驚かせてしまうままである。

でも少しだけ彼らに対して免疫ができたというか、敵の生態をより知りたいという興味は持てたことは大きな収穫だった。

これからもビビりながら、奴らに対抗する術を思案していきたいと思っている。

虫イベントあったら誘ってください。

 

ちなみに今、世界一でかいゴキブリってなんて名前だっけ、と調べていて、

画像が出た瞬間思わずスマホ投げ飛ばして震えたので、克服なんて100年後のお話だと思った。

自分のサイトをもう二度と開けなくなるので参考資料の画像は貼れないけど、興味があったら調べて震えてみてね。

 

エッセイ

Posted by ayapan