[エッセイ]浅草でストリップを見て泣いたいつかのメリークリスマス

IMG_51492015年クリスマス。

直前に彼氏と別れ、さらに12月いっぱいで仕事も辞めて有給消化中、

かつ次の就職先も決まっていない私は史上最強にやさぐれていた。

学生でなければ会社員でもない、あえて役柄を充てるとするなら家事手伝いという、

すっからかんで曖昧で、ふわふわとした状態だった。

貯金なんてしていなかった私には、もちろん金もなかった。

 

それでも私を放って街中は例年と同じように浮かれている。

これでもかというほど。

今まではそんなにクリスマスって意識していなかったけれど、

意識してはならぬ、と自分で制約をかければかけるほどより意識してしまうもので、

気味が悪いほどサンタの赤が目についた。

気をまぎらわすため、おひとり様限定のクリスマスパーティーを友達と開催しようかと思ったがそれほどの元気もない。

余計に寂しくなりそうだし。

かといって家でじっとしているのも勿体ない。

とりあえず目的もなく家を出た。午後三時。凍てついた風に、猫背の背中をさらに丸めた。

 

 

どこに行こうか。あまりクリスマスを感じない場所が良い。

そうだ、浅草にしよう。

あそこならば下町の和風な土地だから、きっとキリストさんとも縁がなくって、クリスマスなんて文化は存在しないだろう……

そんなわけはあるまいに、なんとなくそう考えて、ふらっと都営浅草線に乗り込む。

 

 

浅草寺の境内は素通りし、左に折れて、飲み屋街へ直行する。

モザイクのビニールで風避けされていて居酒屋の店内は見えにくいが、楽しそうな声が聞こえる。今の私にとってはジングルベルより幸せを誘う。

ひとり飲みをすることは普段から慣れているので、集まっていたおじさんたちと相席で一杯飲んだ。

いやぁ、なんかさびしいっすね!と笑顔で話していると、ちょっと気がまぎれる。

熱燗をおごってもらい、ふらふらとそこを後にした。

 

これからどうしようか、と思いながら歩いていたところ、

目に入ったのは浅草のストリップ劇場だった。

「ロック座」

うん、名前がいい。

女の人の看板が並び、その奥にはたくさんの花飾り。

なんて華やかな場所。

前から興味はあったけれど、なかなか踏み込めなかった秘密の園。

 

あぁ、ここで女の人の裸体を観るクリスマスもよいだろう・・・・・・

これはお導きにちげぇねぇ・・・・・・

 

花の香に誘われるようにして施設の中に入っていく。

陽は傾きかけており、西日が眩しかった。躊躇いや恥ずかしさなどなかった。

だって今日は、クリスマス。

少しくらいいつもと違うことをしてみたい。

酒に浸かった私はご機嫌だった。

 

チケットを買うと、もうすぐ次の回がはじまるよ、と受付のおじさんが出番表の載ったチラシを渡してくれた。

途中入退場オッケーで、結構ゆるいらしい。

ストリップ初心者である私は、ドキドキするね!とか言い合える仲間もおらず、ただただひたすら裸体はまだか、と無言で後ろのほうの席につく。

 

しばらくして、古びたブザーの音。

開場の合図のようだ。

暗くなる場内の前方にスクリーンが降りてきて、そこに映し出される数名の女の子たち。

彼女たちは一言も言葉を発しないで笑顔でお辞儀をする。

ここのストリッパーなのだろう。素人っぽい演技がかわいらしいのだが、

「一緒に拍手の練習をしましょう」

となぜか字幕が流れる、無声映画スタイルだった。

 

場内には大音量で「幸せなら手を叩こう」が流れる。

タイミングを合わせて手を叩いてください、とまた字幕。

 

しあわっせなら手をたたこう♪ パンパン

しあわっせなら手をたたこう♪ パンパン・・・・・・

 

なんて、なんて、シュールな空間。

周りをみるとオジサマ方はもちろん素直に手を叩いている。

 

私も音をたてて手を叩く。

幸せの意味を考えながら。

 

しあわせなら態度でしめそうよ・・・

私は今、幸せか?

 

 

ちょっとセンチメンタルな気分になったところで、幕が下り、

いよいよ女の子たちの登場である。

 

ジングルベルがかかる。

はっとした。

悲しいことに、ここでもクリスマスの呪縛からは逃れることはできなかったのである。

むしろ今日はクリスマス特別公演だったと、ここにきて初めて気が付いた。

しくじった。

 

上手からサンタの衣装を身にまとった女性たちが10人程出てきて、

キュートなダンスを披露していく。

 

しばらくすると、ひとりひとり手を振りながらサンタがはけていき、そうして一人のサンタが残される。

この展開はまさか。

まさか。

サンタストリップ――

 

私は息を飲んだ。

これは、私の希望そのものではあるまいか。

そうか、そういうことか。

今日はクリスマスを脱ぎ捨てるんだ。

さようならクリスマス!!

 

予想通り、サンタは真っ赤なひとつずつ衣装を脱ぎ捨て、もうすっぽんぽんである。

サンタの名残などない。

烈しいダンスに合いの手を入れるお客さん。

センターロードの先に座り込み、びしっと足を上げると、そこがターンテーブルのように回転して、

お客さんすべてに見えるような状態になる。すごく体が柔らかい。

また大きく拍手がおこる。

 

(すごい・・・奇麗だ・・・)

 

そう思うと同時に、私はここにきて疑問が湧いてきた。

これは、果たして官能的と呼ぶべきものなのだろうか?

というよりもここにエロスを求めてよいのだろうか?

照明に照らされた裸体は美しく滑らかで、無駄がなく、

まるで神の作り賜うた彫刻のようだ。

これに対して、こんな美しい物に対して、

エロい目で見るのは背徳的行為なのではないだろうか?

 

彼女は己の体に何かを纏ってごまかしたりしない。

身ひとつで情熱を表現し、感情を剥き出しにしている。

 

あぁ、なんて美しいのだろう・・・・・・

 

ストリップ開始から5分。

気が付くと私は顔を正面に向けたまま泣いていた。

両目からマンガのように一気に涙が溢れた。

いや、なんで泣いたのかなんて自分自身もわからないし、後々考えるとキモさと痛さしかないのだが、とにかく号泣した。

 

ありがとうストリップ。

ありがとう女の子たち。

 

まるでフランダースの犬で、最後に少年と犬が天に召されるシーン。

あの白い光と神々しさが、

信じがたいことにここで完璧に表現されている。

柔らかな光が白い躰を包み、彼女たちは私たち客の姿など見えないかのように自由で野性的だ。

ここが草原かなにかであるように、嬉しそうに飛んで、跳ねて、を繰り返している。

 

観に来てよかった。

私は結局、4時間そこにいた。

 

 

帰り際、またもや腹が減ったので立ち食いソバ屋に寄って一杯すすっていくことにした。

先ほどの余韻に浸ろうと、

劇場で目をつけていた女の子のブログを閲覧する。

 

美しい彼女はバックステージの写真を見てもやはり素敵だった。

大量に画像を保存しながらソバをすする。

店の外で、大学生と思しき集団が「くーりすまっすが今年もやーってくるー」

と酔っ払いながら愉快に竹内まりやを歌っているのが聴こえた。

 

「そうか、今日クリスマスなんだっけ」

 

本日何度目かわからない気づきをし、ソバをすする音だけが響く店内で急に現実に戻った私は、

やけに芸術的気分に浸って号泣した数分前を思い出し、少し恥ずかしくなった。

 

エッセイ

Posted by ayapan