[エッセイ]失って初めて気が付くこと。

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大切なものは、失ってみないとわからない。

 

ほんとうに必要だったのだな、ということは、無くなってから初めて気づき、

なくなってから後悔しても遅いものである。

 

私は、そのことを身を持って知ることになった。

それは小学四年の、蒸し暑い夜だった。

 

 

 

10歳であった私は、ベッドにもぐりこみながらもまるで眠れないでいた。

 

昼間は学校へ行き、放課後は友達と遊んで思い切り身体を動かしたのだけれど、

それでも寝付けないのには訳があった。

 

眼の中にまつ毛が入ってしまったのだ。

 

気にせず目を瞑ってしまおうと思ったが、やはりゴロゴロして痛い。

 

目の中の違和感に、私はひたすら指で目をかいていた。

なんとかしてこのまつ毛を取り出すことはできないだろうか。

そう考えながら、眼球をいじり、黒目をぎょろぎょろさせながら、

眼の中からまつ毛を追い出すことだけに集中した。

 

たぶん抜け落ちたまつ毛ではなく、私の場合逆さ睫毛で、目の方に向いた睫毛がそのまま眼球を刺激していたのだろう。

いつまでたってもまつ毛は取れないのだ。

 

私は逆さを向いている部分を指先でこすった。

こすって、まつ毛を器用につまみ、抜いても、まだ目は痛い。

 

それを、どのくらいの時間繰り返しただろうか。

ようやく落ち着いて眠れるくらいになった。

 

もう目もあまり痛くない。

眼球は真っ赤になってしまったかもしれないけれど、

私はそのまま安心して眠りについた。

 

 

 

――翌朝、

顔を洗おうと、鏡をみた。

 

「あれ・・・・・・・?」

 

なんか顔が違う。

 

あきらかに、昨日とは顔が別人だ。

寝ぼけているから?

むくんで瞼が腫れているのだろうか。

 

 

・・・・・・いや、違う。

 

まつ毛が、ない。

 

すべて。

ない!ない!!ない!!!

 

まつ毛は一本残らず抜け落ち、私の顔面にパラパラと落ちていた。

 

「うそ・・・だろ」

 

衝撃の事実に、私は朝から発狂した。

そんな娘の顔をみて、母も発狂した。

 

 

 

その日以降、私はまつ毛のない毎日を送ることになるのである。

 

 

上も下も、一本もまつ毛がないと、ほんとに顔が変わる。

眉毛を前剃りしても顔は変わるが、それと匹敵するくらい、いやそれ以上に変わる。

まぶたは腫れぼったく見えるし、目は一回り小さくなった印象。

改めて「マスカラって人を変えるものなんだなぁ」と知った。

 

しかし、眉毛がなくなっても生活に不便はしないだろう。

しいていえばヤンキーっぽく見えるくらいで、可愛いもんだ。

それに、眉毛なんてそんなもん、描いちゃえば一件落着だし。

 

それならまつ毛も「つけまつげ付ければいいんじゃないの?」と思うかもしれない。

 

甘い。

 

つけまつ毛は、まつ毛が全くないとすぐに剥がれ落ちるのである・・・

というか乗っかる場所がないからくっつかない。

 

私は失ってみて初めて、まつ毛の偉大さと必要さを知った。

人間にとって、こんなにまつ毛が役割をもっていたなんて。

逆さ睫毛うぜぇ!と毟っちゃってごめん、と心の中で土下座した。

 

 

まず。

まつ毛がないと、まともに外を歩けない。

 

眩しいのだ。

それはもうめちゃくちゃに。

まつ毛がないと太陽光が直接眼球に突き刺さる。

常軌を逸した眩しさである。

 

そうなると自然と目を細めて歩くようになり、

どんどん目つきが悪くなる。

 

眼を細めているから、目の周りの筋肉が収縮して、視力が悪くなる。

死の連鎖である。

 

 

まだまだ、まつ毛がないことによる弊害はある。

顔を洗うと目に直で水が浸入してくるのだ。

 

当然、プールなんかはゴーグルを使わないと、目を瞑っているのにじゃんじゃん水が入ってくるという、

地獄のような状況に陥る。

この密集した毛の束は、目の周りで水の浸入をも防いでくれていたのだ。

なんて優秀なのだろう。

 

 

そしてこの一件に関して、私が最も気にしたのは、

「まつ毛がないということがバレる」ということだった。

 

このせいで、人とまともに目を合わせられなくなった。

じっと見つめられると

「まつ毛のことがばれた・・・・・・?」

と焦って目を逸らす。

その習慣は、十数年経った今でも抜けない。

 

 

そんなわけで、私は小学四年の頃の写真がほとんどない。

たぶんこの時期の写真を公開したら、

「稲葉整形だったんだね・・・・・・」とみんな思うだろう。

私の名誉のために、今回、写真の掲載は見送ることにする。

 

 

なんとか小学校の卒業写真には間に合ってまつ毛は生えそろった。

そう、まつ毛はきちんと再生するのだ。

 

しかも逆さまつ毛ではなく、きちんと上向きで!!泣

 

ハッピーエンドで済んでよかった。えらいよまつ毛。

 

とにかく皆様、まつ毛は大事にしてあげてください。

マスカラはちゃんと落として!さらにヴァセリンでも塗って労わって!

 

そのものの大事さは、失ってから初めて、気が付くものなのです。

 

 

エッセイ

Posted by ayapan