[エッセイ]先輩、後輩としてあるべき態度

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私は気にしぃの太鼓持ち野郎だから、後輩よりも先輩の方が扱うのは得意だ。

 

前の職場である探偵事務所は、20代が私と上司の二人、そこから一気に飛んで、次に若いのが43歳で、平均年齢55歳だった。

先輩しかいない。仕事だけでなく人生的にも大いなる先輩である。

入社したときに社長から、

「新卒をとるのは君が最初で最後」

という宣言をされたので、後輩が入ることもない。

 

後輩の立場でいるというのは気楽だった。

人生論や恋愛論を、

「ソーナンスネー!!」

と棒読みで言いながら目を輝かせて聞いて居れば良い。

勉強になります、とか、なるほど、とか、そういう言葉をローテーションで使っていくだけで当たり障りのない関係を築くことができる。

自分からは発信せずに受け身でいればよいというのは実に優雅な立場だ。

 

そこに時々「ヤバい奴じゃないですか!」とか「ほんとふざけてますよね!」

みたいな、ちょっと先輩をいじるような発言を加えると、更に好感度アップである。

一見辛辣な発言でも

「こいつ、ただ持ち上げるだけじゃなくてちゃんとこの場を楽しんでいる!自分は先輩として好かれている!」

と思わせる作用がある。

「生意気だな」ではなく、「にくめない奴だな」と思われたらもうこっちのもんだ。

 

そんな技を駆使していたので、わりと中学時代から今まで先輩からは可愛がられていたほうだと思う。

先輩を慕っている感をだして、うまくやれていた。

 

しかしあるとき、先輩に対する敬意とか好意が偽りであるということがバレそうになるピンチが訪れた。

 

 

中学の頃、チアリーディング部に所属していたとき、お世話になった高校三年の先輩が引退になった。

校庭の隅のほうで学年全員が輪になり、その中心にいる先輩たちが言葉を投げてくれる。

「ほんとに一年間で成長したね」

「今までありがとう」

感動的なシーンに、集まった同級生は号泣。

先輩も号泣。

 

私は、まったく泣けねぇ。

 

なんでこんな陽のあたる場所で話してるんだろう。日陰に移動したいな、と思っていた。

みんなが泣きだしたとき、ギョッとした。

 

この空気は完全に泣く雰囲気だ、ということはもちろん判っている。

ここで泣けないことは今後、この部活動において致命的になるだろう。

お世話になった先輩が卒業するというのに冷たい奴、というレッテルを貼られることになるのだ。

体育会系の部活で、みんなと同じ熱い気持ちを持っていないということは、死刑に値する罪である。

 

やばいことになった・・・と焦りを抑えながらとりあえず俯いていると、

「じゃあ端からなにか一言ずつ、言っていこっか」

と、悪魔のような提案が聞こえた。

 

ガン泣きしている子は、言葉もままならないが、

先輩はその子の背中をさすりながら、

「もう、そんなに泣かないでよ~(泣」

とつられて泣きだし、たいしたことを言ってなくても感動を呼ぶ。

「先輩がいなくなるのが悲しいから泣く」

という単純かつ可愛い方程式は、先輩を最も悦ばせる対応に違いない。

 

私はセリフを考えている場合ではなかった。

とにかく泣かなくては、と思ったが、そう簡単に泣けない。

 

たしかに先輩たちは卒業はするけど、たぶんOGとして遊びにきたりするだろう。

走馬灯のようにこの一年間を思い出してみたが、真夏の炎天下に三十分くらい腕をあげて笑顔で立たされたり、先輩と会ったときには部活時以外でも踵をあげて挨拶しなくてはならないという体育会系特有の謎ルールのことなどが蘇ってきて、余計に泣けない。

 

そして私の番である。全視線が私に集中している。

私はわざと少し言葉を詰まらせ、

「一年間ありがとうございました。先輩たちのこと、忘れません・・・」

当たり障りのなさすぎる、一瞬にして記憶からなくなるのであろう言葉を述べながら、

少し俯き加減で鼻をすすった。

ちょっと泣いてるふりをする、というところで事態を収拾させたのだ。

 

臨機応変に先輩が求める態度をとること。

それが好かれるポイントなのだと悟った。

 

 

まぁそれでも、後輩という存在のほうが先輩よりも脅威である。

接し方がまずわからない。

 

理想としては「話しやすい友達みたいな先輩」という丁度いい立場でいたい。

変に説教をしてみたり、ちょっとしか長く生きていないのに偉そうにしたり、

そういう先輩にはなりたくない。年上感をだしたくない。

 

後輩に嫌われる先輩になりたくない、年上だけど絡みやすいと思われたい、という想いは人一倍強いのかもしれない。

 

 

私にもかわいい後輩というのはいた。

大学時代、ケーキ屋でアルバイトをしていたときの子で、Rちゃんという。ちなみに、めっちゃ美人。

3つ年下で、接客や調理すべてを教え、仕事後には一緒に酒を飲んだりお茶したり、公私共に仲良くしていた。

件の部活もかなりサボっていたし、下の代と絡むこともなく辞めてしまったので、ほとんどはじめての後輩である。

 

Rちゃんは、異常なくらい私に懐いてくれた。

私が70年代ロックが好きだと言うと同じように好きになってくれ、レコードプレイヤーも購入するし、私が面白いという映画は必ず観てDVDも買った。

苦手な食べ物も、私が好きだというと残さず食べた。

私がバイクの免許を取ると、彼女もツーリングをしたいと言って教習所に通った。

 

「ばう子先輩の言うことは間違いないです!」

 

というのが口癖だった。先輩後輩というより、師弟関係みたいだね、とよく言われた。

※ばう子、というのは私のバイト先での呼び名である。

稲葉という苗字からイナバウワーに派生し、バウワーという部分だけが残った。決してバカにされていたわけではないと、信じたい。

 

そんな彼女が、あるとき就職の悩みを相談したいと言ってきた。

 

その頃、私は大学を卒業し、探偵社で働いていた。

まともに就活もせず、ノリで入社してしまったようなクズが、一体就職のなにを話せばよいというのだろう。

どの面さげて「就活とは」みたいなことが言えるのだろうか。

 

それでも、彼女は私に相談したいらしい。

こんなちっぽけな人間を信頼してくれているRちゃんの期待を裏切るわけにはいかぬ。

 

私は、カフェに彼女を呼び出した。

飲みながら話すと酔ってなにを言いだすかわからない。

万が一、えらそうに説教なんてしてしまったらイメージが壊れかねないのだ。

私の理想は「なんか親しみやすくて気のいい先輩」である。

めんどくさい奴、とは絶対に思われたくない。

 

とりあえずただかっこ悪い姿をさらしたくない一心で、私はかっこいいことを、かっこつけて言った。

 

「結局、就職することはゴールじゃない。仕事している時間は割合として多いんだから、そこを楽しめなきゃ人生もったいないよ。楽しい仕事をしろとまではいわないけど、いやいややって、残業して、自分の生活を殺してまで働く価値があるかどうか、よく考えて就活したらいいと思う」

 

話をするうちに急にエンジンがかかってめちゃくちゃ熱くなってしまい、酔ってもいないのに酔っているような臭い発言を繰り返してしまった。

しかも完全に私の持論だ。たぶん普通に考えたら、いい会社に入れるもんなら入ったほうがいい。

思い返すと恥ずかしくなった。まるで小汚い居酒屋でオッサンが部下にするような話を、オシャレカフェでやってしまった。

それもこれも、彼女がすごく真剣な顔をして聞いてくれたから、思いっきりいい気になってしまったのだ。

これでは、数個しか年齢が変わらないのに偉そうにする、私の嫌いな先輩像である。

 

 

しかし帰り際、Rちゃんはすっきりした顔をしていた。

コーヒーしか御馳走していないというのに、こちらが申し訳なくなるほどお礼を言われた。

こんなことなら、夕食も奢っておけばよかったと後悔した。

「やっぱりばう子先輩に相談してよかったです!」

そうして爽やかに別れた。

 

その数日後、彼女は内定が出ていた会社を辞退。

就職浪人することに決めたのである。

 

話を聞いたときかなり焦った。

まずいことになった。

人生を変えてしまったかもしれない。少なくとも決まりかけていた気持ちに、最後の一押しをしてしまった。これは半端なく重い、と思った。

結果的によい決断だったのだろうが、それでもかなり不安になった。

 

 

後輩は、可愛いけど恐ろしい存在だ。

一言でこんなに影響を与えてしまう可能性もある。

なるべく後輩の前ではミスをしたくないし、堂々としてかっこつけたい。

親しみやすい先輩、の大前提として、仕事がよくできる先輩という像がなくてはならないからだ。

少しでも失敗すれば評価は下がるかもしれない。

 

 

やっぱり私は先輩の武勇伝を聞いて、すげーとか言ってるほうが似合ってるだろう。

 

今なら泣く真似もできるかもしれない。

美味しそうにご飯を食べて、美味しそうに酒を飲むのは、私の得意技だし、

気持ちよくさせるように太鼓持ちをやってるほうが楽である。

 

とにかく私は、後輩の相談に乗ってあげられるほど、まだまだ人間できていないということだ。

 

エッセイ

Posted by ayapan